パラグライダー死亡事故 第1位
こんにちは、ソラトピアの殿塚です。
素人の皆さんからすると
パラグライダーの死亡事故 = 飛行中、風に煽られて墜落死
をイメージする方が多いと思います。
しかし近年、日本で最も多い死亡事故は「ベルトのつけ忘れ」です。
「大事なベルトを接続し忘れて離陸し、飛んでいるグライダーから人間だけ落下する。」という事故です。
単純なケアレスミスによる事故なのです。
過去3年間(2018〜2020)、日本で起こったパラグライダー の死亡事故は全部で11件。
その内、3件が「ベルトのつけ忘れ」です。
2021年3月10日にもベルトのつけ忘れによる死亡事故が東海地方で起こってしまいました。
最近の死亡事故の3件に1件は「ベルトのつけ忘れ」という状況です。
■「ベルトのつけ忘れ」とはどんな状態か
パラグライダーは専用のハーネスを装着して飛びます。
ハーネスは空中ではイスになり、地上ではリュックのよう背負って移動します。
ハーネスには「レッグベルト」という、足の付け根で身体を固定するベルトがあります。
レッグベルトを着けていなければ、飛んだ時に身体がハーネスから抜け落ちてしまいます。
なぜ死亡事故に直結するほど重要な「レッグベルト」をつけ忘れてしまうのでしょうか。
■原因は「フロントコンテナ」
一般的に言われる最も大きな原因は「フロントコンテナ」です。
フロントコンテナとは
「計器を見やすく設置するため、お腹の前にセットするバッグ」
パラグライダーでは高度や位置情報をチェックするため、いくつかの計器を持って飛びます。
フロントコンテナの上部に計器を設置し、画面が見やすいようお腹の前にセットします。
この「お腹の前にセットする」というのがポイントです。
フロントコンテナがお腹の前にあることで、レッグベルトが見えなくなります。
つけ忘れた状態。レッグベルトはお尻の後ろに挟まっています。
フロントコンテナの装着により、周りの人はレッグベルトのつけ忘れに気づきません。
パイロット本人も着けるのをすっかり忘れています。
レッグベルトの着け忘れはこうして起こります。
■つけ忘れたまま離陸すると
離陸直後、ハーネスから身体が抜け落ちそうになります。
この時いっそ抜け落ちてしまえば良いのですが、大抵はハーネスに脇が引っ掛かります。
そして落ちないようパイロットは必死にしがみつきます。
この状態で飛んでいきます。
離陸から5秒後には、地面まで数十メートルという高さになっています。
想像するだけで怖いです。書いていて手に汗をかいてきました。
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レッグベルトつけ忘れの再現動画を撮影しました。
どんなことになってしまうのか、ご覧ください。
レッグベルトをつけ忘れて飛んでしまった時、パイロットが取れる行動は3つです。
①すぐ木に不時着する
②着陸場所まで耐える
③逆上がりしてハーネスに座る
詳しく解説していきます。
①すぐ木に不時着する
離陸後すぐに操作をして、森に突っ込みます。
実際につけ忘れで飛んでみた結果、離陸から1分くらいなら操作をして曲がることが可能だと分かりました。
対地高度が高くなる前に森に不時着しましょう。
しかし、森に突っ込んだ衝撃でハーネスから落下する可能性が高いです。
木の高さから考えると、数メートルから最大30mくらい落ちるでしょうか。
それでも数十〜数百メートルから自由落下するよりはだいぶマシです。
運が良ければ助かるかもしれません。
山の急斜面に落ちれば、五点接地のように衝撃が分散されるかも?
ジャッキーチェンの映画みたいに、木の枝か何かがクッションになってくれるかも?!
②着陸場所まで耐える
ハーネスにしがみついたまま、着陸地点や広場まで耐えます。
しかし、耐えきれずに落下した場合はまず助かりません。
しがみついた状態で耐えられるのは、3〜5分程度ではないかと言われています。
つけ忘れで亡くなった方は、ほとんどがこのパターンです。
筋力が強い方や、山が低くて飛行時間が短ければ耐えられるかもしれません。
③逆上がりしてハーネスに座る
腹筋を使い、足を振り上げ、ハーネスに座るというアクロバティックな対処法です。
うまくできれば通常飛行に戻すことができます。
できなかった場合は、体力の消耗が激しいです。
1度トライした後は、すでにテイクオフから遠く離れています。
森に突っ込むこともできず、地上までは耐えられず落下してしまうでしょう。
事実、この方法で助かったと言う方はいらっしゃいます。
しかし実際にこの状況に陥った時に、自分が冷静に対処できるかはわかりませんね。
あくまで参考までに、といったところです。
体験しておくことも大切です。
一度シミュレーターで練習してみると良いでしょう。
■転ばぬ先の杖「プレフライトチェック」
対処方法を3つご紹介しましたが、つけ忘れをしないことが最も重要です。
離陸前には必ず、必ず、必ずチェックしましょう。
日本ハング・パラグライディング連盟(JHF)では、「チェック5タグ」を作成し啓蒙しています。
ソラトピアではチェック5タグができる前から、独自のチェックを徹底しています。
【 ソラトピア 7つのチェック 】
①レッグベルト
②チェストベルト
③あごひも(ヘルメット)
④カラビナ
⑤アクセル
⑥レスキューパラシュート
⑦無線
これを①から順番に、まず自分でチェックします。
その後、テイクオフスタッフまたは他のパイロットと一緒に相互チェックします。
テイクオフをやり直したり、待ち時間が長くなった時は、もう一度チェックします。
何らかの理由で、ベルトを外した可能性があるからです。
相互チェックを確実にすれば、レッグベルトのつけ忘れは防げます。
■気をつけるべきは慣れた頃
ちゃんとしたスクールであれば相互チェックを指導しているので、スクール生がつけ忘れで飛ぶことはまずありません。
気をつけなきゃいけないのは「ベテランパイロット」です。
ベテランほど悪い意味で慣れがでて、相互チェックがおざなりになる傾向にあります。
十数年前から飛んでいるようなパイロットの中には、そもそも相互チェックをしない方もいます。
事故を防ぐためには、ベテランであろうと誰であろうと、しっかり相互チェックをすべきです。
■実は、やったことあります
偉そうに語っている殿塚ですが、一度つけ忘れで飛んだことがあります。
その時の様子を再現画像でお届けします。
今から15年ほど前のこと。
テイクオフでセッティングを全て済ませ、離陸できる風になるのを一人で待っていました。
※実際にはグライダーも接続されていました
なかなか風が良くならなかったので、ハーネスから抜け出てトイレへ。
トイレから帰ってきて、ハーネスの上に座りました。
ハーネスにもたれるために肩ベルトを通して
暇なので計器をいじるためにフロントコンテナを膝の上へ。
風が良くなったので「おっ!飛ぶチャンスがきた!」と思い
フロントコンテナの金具を留めて、
急いで離陸!!
このような流れで、レッグベルトをつけずに離陸しました。
幸いにも、私のテイクオフスタイル※ がハーネスから抜け落ちにくいものだったので、つけ忘れに気づいたのはハーネスに座ってからでした。
※※※※※※
おなかのベルトに全体重を乗せて飛び出すスタイル。
そのままポッドに足を入れて、座る。
この時はフロントコンテナに全体重を乗せてたことになります。
なお、近年のポッドハーネスは安全対策がされていて、
レッグベルトのつけ忘れをしにくい構造になっています。
※※※※※※
ハーネスに座ってパッと目線を下に向けると
「あれ?!ベルトがない?!」
いやーーー ゾッとしました。
「やっちまった!!」と思いましたね。
お尻の下のベルトをそーっと取り出し、空中で付け直しました。
その後、何食わぬ顔で着陸しましたが、心臓はバックバク。
あの時ハーネスから抜け落ちていたら、私は今ここに居ないかもしれません。
つけ忘れの経験があるからこそ、いまでも入念にチェックをするし、スクールでもプレフライトチェックの大事さを説き続けています。
まとめ
「ベルトのつけ忘れ」で死ぬのはもったいない!
慣れてきた頃が一番危ないよ!
レッグベルトの相互チェックだけは確実にしましょう。